BONATHIAで活躍するクリエイターの方をご紹介する特集。7回目の今回は、umeさんをご紹介します。アーティスト活動を始めたきっかけや制作、これからの目標などを伺いました。
もくじ
体調を崩したことをきっかけに、アートの世界に戻ることを決意
―初めに、作品を作り始めたきっかけを教えてください。
物心ついた時から絵を描いていましたが、本格的に始めたのは高校生の時です。美術科に進学し、卒業後は短大の美術コースに進みました。そこで日本画と出会い、地元福島から出て東京の専門学校に入学し、日本画科で専門的に学びました。
―日本画を選んだのはどういった背景があったのですか?
初めに日本画に惹かれたのは、 中学校の美術の教科書に載っていた 速水御舟の絵を見た瞬間です。『炎舞』という作品で、深く印象に残りました。
そういった原体験があり、専門学校に進学してからはずっと日本画を描いています。在学中は個展を開き、初めて作品が売れたのも学生の時です。椿を描いた作品を友人のお母さんが買ってくださり、玄関に飾ってくれました。
ただ専門学校を卒業してからは結婚し、子育てに忙しく、20年ほどアートからは遠のいていました。
―再び書き始めるようになったきっかけは何でしたか?
子供が美大に入ったことがきっかけで、また自分も描きたいと思いました。また、病気を患ったことも大きな理由の一つです。体を壊してフルタイムの仕事をすることが難しくなり、家で休んでいる時間に描くようになりました。
体調を崩したのは、生活のためにやりたいことではない仕事を続けていて悪影響が出たことが原因です。そのためアートという自分が好きなことをやることで、精神的にも楽になりました。その後、思い切って仕事を辞め、保証は全くなくても絵を描いて食べていこうと決めました。
―好きなことを仕事にされたんですね。20年ぶりに描いてみて、いかがでしたか?
まだ現役で描いていたころの勘は戻っていませんが、すごく楽しいです。子どもに進められてInstagramを始めたのですが、コメントの一つひとつを嬉しく感じます。20年前にはなかったもので、自分で自由に発信して、知らない人が感想をくれるのはすごいですね。
また、Instagramがきっかけで声がかかり、展覧会などにも出し始めました。同時期にオーダーをいただいて販売もしています。
絵を描く根底にあるのは、誰かの癒しになってほしいという思い
―作品を作るときに心掛けていることや共通するコンセプトはありますか?
見ていただいた方々の、癒しや救いになることを願って描いています。学生のころは、描いている自分が中心にいる感覚でした。年を重ねた今は、「見た人が、この絵をいいなと思ってほしい」と感じます。作品を通して心を癒せると、私も幸せです。
たまに、私の絵をすごく気に入ってくださる方がいます。「生きているのがつらい思い」「近しい人が亡くなって悲しい」という気持ちの中で絵を見て、色々な感情がわいて涙が流れると言われると、描いていてよかったと感じます。
―作品を見て泣いてしまうというのは、すごいですね。
同じ絵を見ても、感じることは人それぞれです。ただ、何か響くものがあるというのは嬉しいですね。不思議と涙が流れましたというコメントをいただくと、こちらも力をもらえます。
―今、umeさんがよくモチーフにするものはありますか?
植物が多いです。学校では日本画の授業で植物の細部まで描かされて大変だと思っていたのですが、いざ自由に描けるとなると、植物はモチーフとしていいなと思います。ただ、実物を見て写生するわけではなく、イメージを入れて崩して描いています。参考のために本物を見ますが、作品としてそのまま描くことはありません。
企画展がきっかけで円がつながり、地元のお寺の天井画を製作
―作品はどのくらいのペースで作っているのですか?
ほぼ毎日、何かしらの作業はしています。製作期間はサイズによりまちまちですが、小さな作品は2日ほどで完成します。
日本画は、他の絵に比べて時間がかかるものです。まず板を買ってきて、そこに和紙を貼って下塗りします。一晩おいて、翌日やっと書き始められるようになります。また、日本画は水で絵の具をといて和紙にのせていくので、描いては乾かしという繰り返しです。大きな作品は1ヶ月前後かかります。
―大きい作品も書かれるのですね。
はい。新国立美術館の企画展では、1mほどの作品を作りました。展示は料金がかかるので躊躇することもあるのですが、この企画展は2021年の終わり開かれたので、一年のまとめとして出展しようと思いました。
そこで双竜を描いたのですが、それを見た福島の龍角寺の方が、「うちのお寺で天井画を描ください」とお話をくださりました。今は構成を練っていて、もうすぐ描き始めます。
―それはすごく楽しみですね。他に、これから挑戦することはありますか?
最近、ガラスやアクリルに、ルーターで絵を彫っています。日本画作品の額を彫りって絵画と重ね合わせた作品も作っているところです。他にこうした組み合わせでクリエイティブしている方がいないため、面白いと言ってもらえます。
単に絵を描くのではなく、絵にあわせた額にもアートを施すことで、作品を立体的に見せることが可能です。
絵を見ることで自分を解放して現実の苦しさから逃れられる
―制作を始めてから行き詰ることはありますか?
あります。例えば展覧会にはテーマがあるのですが、それに沿って何を描けばいいかすぐに思いつかないことも多いです。そんな時はカフェでぼうっとしたり、料理をしたりと、別のことに集中します。
その間、作品については忘れようと思っても常に頭の中にあるので、考えを熟成させて改めて向き合うと、良いアイディアが思いつくことがあります。描き始めてからは、頭の中にある完成図に向かってひたすら集中するだけです。その間は無の状態で、気付くと体の一部が痛くなって、ずっと集中していたことに気づくということもありますね。
―すごい集中力ですね。そうして出来上がった作品を通して、お客様に伝えたいことは何ですか?
絵の世界へすっと入って、何も考えずに心を解放して欲しいです。私も美術館に行って好きな作家の絵を見ると、その世界に入り込んで現実逃避ができます。そういう感覚をたくさんの人に体験してほしいと思います。
人気の企画展などはゆっくり鑑賞できませんが、そうではないタイミングで訪れたり、小さな美術館を選んだりすると、ベンチもあってみんながゆっくり見ているのでおすすめです。
描き続ける限り精進し、作品を生み出し続ける
―umeさんの今後の目標について教えてください。
永く続けて、精進し続けることです。ずっと、絵を描くことで誰かの救いや癒しになりたいと思って、寺社仏閣に自分の絵を飾りたいということが一つの目標でした。それが叶い今年お寺の天井画を描くので、完成したらまた新しい目標が見えてくると思います。
―次にどんな目標ができるのか、今から楽しみです。では最後に、umeさんにとって作品作りとはどんな意味を持っていますか?
描くことが、私の生きる意味です。体を壊したとき、苦しい時間もありました。そこで「自分は何のために生まれてきたのか」と考えることも増えました。学生のころは「明日死んでも後悔しない生き方をする」と思い、これが最後になってもいいという気持ちで描いていたと思います。
今も後悔しないようにという気持ちは変わりませんが、「何のために生まれてきたのか、それは描くためではないか」という思いが強いです。なんとなく、自分が生きているのは作品を生み出すためなのではないかという感覚があるので、これからも最後まで描き続けたいと思います。