BONATHIAで活躍するクリエイターの方をご紹介する特集。1回目の今回は、浅海和広さんをご紹介します。アーティスト活動を始めたきっかけや制作、これからの目標などを伺いました。
心の健康を損なってから出会ったアート活動
―初めに、アーティスト活動を始めたきっかけを教えてください。
きっかけは、23歳のころ統合失調症を患って入院したことです。病院にいる間、ちょっとした落書きを描いていたらスタッフの方にすごく褒めていただいて、調子に乗ったんですね(笑)。そこから個人的に、色々と描くようになりました。
転機となったのは、武蔵野アール・ブリュットでした。アール・ブリュットとは、既成の表現法にとらわれず、自由に制作されたアートのことです。自己流で描いていた自分にぴったりだと思って、このコンクールに応募しました。そこで入選し、「もっと作品を作ろう」とモチベーションがアップしました。
―独学で描かれていた中で、大きな結果を出されたんですね。
当時は本当に嬉しかったです。私が大学生の時はいわゆる就職氷河期と呼ばれる時代で、就活も上手くいかず大学を途中でやめてしまいました。そのためきちんと社会に出たことがなかったのですが、そんな自分を初めて認めてもらえたような気分でした。
―では、お仕事などでもともとアートに携わっていたわけではないんですよね。
はい、仕事もしていないですし、美術やデザインについて勉強したこともありませんでした。絵についても詳しくなくて、せいぜいピカソを知っているくらいで。ただ、岡本太郎の本を読んだ時は驚きました。彼は「芸術は爆発だ」という有名な言葉を遺していて、いわゆる「ぶっとんでる」人だと思われています。しかし彼の書いた本は非常に理知的で、感性と理性の両面を持っているんだなと感じました。
「1日1アート」を基本に毎日作品と向き合う
―ここからは作品制作について伺います。AZさんは絵を描くとき、どのような画材を使っていますか?
持ち物にものすごくこだわっているわけではなく、初めはボールペンを使っていました。次に筆ペンを使ってみて、最近はゲルペンで描いています。今でも、ゲルペンに飽きたら筆ペンを使うこともあります。初めての道具を買ってみて失敗することもありますが、意識的に様々なものを使うようにしています。
―基本的にはペンを使って描き進めていくんですね。
はい。以前「浅海和広さんは線画の方がいいね」と言ってもらったことがあって、そこからボールペンやゲルペンを使っています。色に関しては、初めのうちは色鉛筆も使ってみたのですが、納得いかずに油性ペンにしました。最近ではコピックがお気に入りです。すごくパキっと色が出て、理想に近い形になります。デジタルでは、iPadを使って描いています。
―毎日同じスケジュールで制作していますか、それともバラつきがありますか?
自由に描いているので、決まったスケジュールやルーティンなどはありません。やる気がわいたら書き始めるという感じですね。ただ、「1日1アート」ということだけは決めています。完成させるかどうかに限らず、毎日1回はアートに触れるようにしているので、何も制作しないという日は基本的にありません。
どのくらいの時間でどのくらい制作が進むかは、その時々でまちまちです。「今日は描けない」と思った日はなかなか進みませんし、大きい作品を一気に描き上げることもあります。
何にもとらわれず自由にアートと向き合う
―作品作りには喜びも苦しみもあるのではないかと思うのですが、制作している時はどのような感情ですか?
楽しいですよ。絵を描くことは、自由なことです。ルールや厳しさはなく、好きなように描いています。だから私にとっては「楽しい」以外にないですね。昔から何かにしばられることが苦手だったので、アートとは気ままに向き合っています。
とはいえ、ずっと描いていると行き詰る瞬間もあります。そんな時は散歩に行ったり、古着屋に行ったりします。そうやってリフレッシュしてまた作品に向き合います。私は色塗りが得意ではないのですが、上手く塗れると達成感がありますね。でも、あくまで自由にやっているので、思い詰めすぎることはありません。
―AZさんにとって、「自由」が一つのキーワードになっていますね。そんな自由さから生まれた作品が多くの方から愛されていますが、その最大のポイントは何だと思いますか?
一番は、他の人は描けないもの描いていることです。例えば、犬や花を私より上手に描く人は大勢います。でも、私が描く作品は他の誰にも描けないものです。このオリジナリティを評価いただいていると思います。
―今まで制作された中で、思い出深い作品は何かありますか?
『双璧の女(そうへきのひと)』という作品です。1091mm×788mmという大きなキャンパスに、3日間で描き上げました。あまりにも夢中でとりつかれたように描いていたので、1日どのくらいの制作していたのかわかりません。食事もトイレも忘れたように手を動かしました。この作品は全日本美術新聞社賞を受賞したこともあり、思い出深いです。
また、初めて人に買っていただいた作品のこともよく覚えています。ZERO CAFE AOYAMAというギャラリーで作品を展示していたら、ある経営者の方が買ってくれました。まったくの無名だったにもかかわらず購入してくれたことが嬉しかったですし、この方は今でも応援してくださっています。
―やはり作品を目にした方の反応が見られると、嬉しいですよね。
そうですね。「浅海和広さんの作品を見ると泣けてくる」と言っていただいたこともあり、私は泣かせるつもりで描いているわけではありませんが、そうやって評価いただけると嬉しいです。
自分だけが描ける作品を生み出し続ける
―浅海和広さんは楽しんでアート活動をされていると思いますが、改めてご自身にとって作品作りはどんな意味を持っていますか?
一言で言えば、「唯一無二」です。私が描く作品は私だけの世界で作られていて、私がいなければ生まれないものです。そのため、他にはないものを作っているという思いがあります。
また、アートは私にとって魔法です。病気になってからは何もできず苦しい毎日でしたが、絵を描くことによって自分を表現できるようになりました。『ハリーポッター』の主人公が魔法を与えられて家族のいじめから抜け出したように、アートも私に新しい可能性をくれました。
―アートという魔法を使ってこれからも制作を続けていかれると思いますが、今後の目標は何かありますか?
絵は売れなければただの紙切れです。だから作品を作って、しっかり販売もしていきたいと思います。
また、世界にも行ってみたいです。日本人はあまり絵やアートに興味がありませんが、海外は日常に溶け込んでいます。私の作品は少しアニメ的な要素もあるので、そういう意味でも日本以外の方にも届けばと思っています。
―最後に、BONATHIAではアパレルアイテムを制作いただいています。これらの商品を通してお客様に伝えたいことはありますか。
シンプルもいいですが、一つくらいはちょっと変わったアイテムをぜひ持ってみてください。最近は似たようなファッションをしている若い方が多いと思います。それも悪くはありませんが、個性的なテイストも取り込んで、「右にならえ」的なところから抜け出してみてはいかがでしょうか。